産業医学ジャーナルに「労働者の睡眠をめぐる歯科の関わり」が掲載されました。
◆産業医実務に生かせる提言
<睡眠をめぐる近年の知見と職域での対応 10>
労働者の睡眠をめぐる歯科の関わり ~睡眠歯科学の視点から~
安田恵理子(安田労働衛生コンサルタント事務所)
外木 守雄(日本大学歯学部付属歯科病院口腔外科)
『産業医学ジャーナル』48巻2号:J-STAGE
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/ohpfjrnl/48/2/_contents/-char/ja
<提言 睡眠をめぐる近年の知見と職域での対応 (第10回)>
労働者の睡眠をめぐる歯科の関わり ―睡眠歯科学の視点から―
https://doi.org/10.34354/ohpfjrnl.48.2_191
<要旨>
この論文は、労働者の睡眠と歯科の関連について、特に働く世代における留意点について述べられています。
産業保健における課題
産業保健とは、労働災害や業務に起因する健康障害を予防し、労働者の健康を保持増進することを目的としており、生活習慣病対策が重要な課題です。
特定健康診査・特定保健指導と歯科・睡眠との関連
特定健康診査の質問票にある歯科に関する質問や、睡眠に関する質問を通して、産業保健における歯科と睡眠について。
歯科に関する質問項目から考えられること
2018年に追加された質問13の「噛みにくさ」は、生活習慣病予防に関わる重要な項目であり、咀嚼機能の低下は、糖尿病や高血圧、肥満になる傾向が見られます。 質問14の「速食い」は肥満や糖尿病と、質問16の「間食」は肥満だけでなく、う蝕や歯周病の発症や進行のリスクとなります。質問8の喫煙は歯周病へのリスクが大きく、咀嚼機能低下へとつながります。 生活習慣病を持つ人は、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)を発症していることも多く、歯科健診の場では生活習慣病や口腔機能発達不全症を契機としてOSAのような睡眠障害につながることが示唆されるため、保健指導が行われています。
睡眠に関する質問項目から考えられること
質問20の「睡眠で休養が十分とれている」で「いいえ」と答えた方や、質問15の「就寝前の2時間以内に夕食をとることが週3回以上ある」に「はい」と答えた方は、睡眠障害により朝の休養感(睡眠の質)が低下していると考えられます。 睡眠休養感を低下させる要因としては、睡眠不足や運動不足、糖尿病・高血圧・がん・うつ病等の慢性疾患に加え、ストレスや食習慣の乱れが挙げられます。ストレスや食習慣の乱れは口腔内に様々な症状を引き起こします。
睡眠歯科治療の現状
閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)に対する治療戦略として歯科が貢献できるものは、口腔内装置および顎顔面外科治療が主体となります。 口腔内装置(マウスピース)は、下顎もしくは舌を前方に牽引し気道を拡大するもので、2004年に保険収載されました。 顎顔面外科治療法としては、上顎骨を水平に切るLe Fort I型骨切り術、下顎骨を矢状に分割する下顎枝矢状分割術(SSRO)、舌骨を前方へ牽引するオトガイ形成術があり、これを応用したOSAの外科治療では、上下顎前方移動術(MMA)と舌骨を牽引する舌骨上筋群前方移動術(GA)が選択されます。
最後に
歯科・口腔からの健康の取り組みは日常で身近なことであり、生活習慣として当たり前になっていくことが期待され、それが睡眠障害の予防にもつながることが理解いただくことが重要です。 産業保健現場において、多職種で様々な意見や助言を交わし共通理解することで、それぞれの専門職の良き連携につながることが望まれています。