産業歯科保健とは
労働者を対象として、職業起因性(労働環境や労働条件等)の健康障害の予防および労働者の健康の保持増進に寄与する口腔保健活動である。本活動は労働者個人に対してだけでなく、職場(事業場や企業等)全体の集団に対して衛生・健康面から関わることで、ヘルスリテラシーの向上や快適職場づくりに貢献することができ、それが日本の産業の活性化や地域を含めた人々の健康の貢献へと繋がっていく大事な活動である。
具体的に職業起因性の健康障害に関しては、労働安全衛生法66条で、「有害業務で政令に定めるものに従事する労働者に対し、歯科医師による健康診断を行わなければならない」と、該当する事業場においては6か月以内ごとに歯科医師による特殊健康診断を受けるように定められている。また2022年10月以降、対象者がいる全ての事業場で、その報告が義務付けられた。
健康保持増進に関してはTHP(トータルヘルスプロモーション:事業場における健康保持増進のための指針)が、2020年、2021年と改正され、歯科健診や口腔保健指導が明記され、今後の産業歯科保健の取り組みが期待されている。
特に職場の健康管理の主要なテーマである生活習慣病対策においては、歯周病と各種疾患との関連のエビデンスも明らかとなってきている。さらに歯科口腔領域の疾患とプレゼンティーズムやストレスとの関連、歯科医療費の問題等も、その知見やデータが蓄積されてきている。
このように時代とともに変化していく健康問題に対して、実践的に取り組み、学術的に探究していくのが、産業歯科保健である。
生産年齢人口(労働者)の減少および高齢化といった今後日本の働き方の変化の中では、産業保健は一層重要となる。そのため産業医、産業保健看護職、産業衛生技術職と連携し、産業保健を担う一員としての歯科の存在意義は大きい。