平成19年度8020公募研究報告書抄録
(8020財団の許可を得て掲載しています)
研究課題:歯科医師の産業保健活動に関する実態調査
研究者名:井手玲子1)、岩崎茂則2)、藤田雄三3)、圓藤吟史4)、大前和幸5)、東 敏昭1)
所属:1)産業医科大学産業生態科学研究所作業病態学研究室、2)日本歯科医師会産業保健委員会、3)神戸製鋼所、4)大阪市立大学医学研究科産業医学分野、5)慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室
【目的】社会情勢や産業構造の変化に伴う社会的な要請をうけて産業医の職務範囲は時代に応じて変化し、労働安全衛生法も状況に則して改訂されている。一方、歯科医師の職域での役割は事業場の診療所で診療を行うことが中心であった時代以降、職場のニーズに応じた活動の展開が報告されているが、法的な裏付けの希薄な中その活動の方向性は明確でない。本研究では、産業保健分野に近しい歯科医師を対象に活動実態を把握するとともに、受講希望の研修内容、産業歯科保健活動の課題の認識 について情報を収集し、今後の産業歯科保健活動のコンセンサスを検討することを目的とする。
【方法】調査対象は、労働衛生コンサルタント有資格歯科医師、平成15-18 年度日本歯科医師会産業歯科医研修会アドバンストコース修了者、産業衛生学会会員の歯科医師639 名である。平成20 年1 月中旬に無記名の自記式質問票を用い郵送調査を実施した。質問項目は、以下の通りである。①全員に尋ねた項目: 記入日、属性(就業地、性別、年齢)就業形態、資格・認定等の所有状況、地域保健活動への取り組みの有無、参加学会・研修会、受講したい研修内容、今後の活動の希望の有無、活動実績、産業歯科保健活動の阻害因子および取り組むべき課題、本調査への興味 ②最近一年間に実際に産業保健活動を行っている者に尋ねた項目:受け持ち事業場数、受け持ち事業場の業種、受け持ち事業場の規模、従事している日数、産業保健活動の内容、かかわるきっかけ、報酬額、活動の満足度 ③最近一年間に産業保 健活動を行っていない者に尋ねた項目:実施しない理由。本調査実施にあたり、日本歯科医師会および日本産業衛生学会に名簿使用の許可を得た。本研究は、産業医科大学倫理委員会の承認を得ている。
【結果】有効回答率は49%(312/639)であった。回答者のうち男性が83%で、50-59 歳が39%、40-49 歳が32%であった。就業地は関東が4 割と最も多く、開業医が65%、企業の勤務医は8%であった。約半数は労働衛生コンサルタントの有資格者であり、OSHMS システム監査員、産業カウンセラーなどの安全衛生関係の資格を取得している者もいた。受講したい研修内容として産業保健・産業医学に関する基礎知識,職場での歯科保健活動の実際例が挙げられていた。回答者の65%が歯科分野以外も含めて職域で活動したいと考えており、最近一年間に産業歯科保健活動を行った実績があると答えた者は147 名(47%)であった。実績がある者の活動内容としては歯科健診が105 名で最も多い一方、衛生教育または健康教育(54 名)、職場巡視(30 名)、作業環境に関する指導・助言(23 名)などが挙がっていた。産業歯科保 健活動の阻害因子として、法的基盤の希薄が活動実績の有無に関係なく第1 位であったが、実績がある者では歯科専門家の人材不足が第2 位であった。自由回答式の記入欄には、歯科健診の法制化に関する考え、歯科界での産業歯科保健の優先順位の低さ、現行の日本歯科医師会の研修会後のフォローについての意見が記載されていた。
【考察】産業保健分野における歯科医師の活動は法的な位置付けが曖昧であることから、歯科医師が労働衛生コンサルタントを取得するなどして研鑽を積んでもその活路が見出せない現状がある。産業保健における有効な人材活用のためには、労働衛生についての一定の技能を取得した歯科医師のより実践的な役割を今後検討していくことが必要であると考える。
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