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イベント

2022年度(令和4年度) 後期研修会の記録

 2022年(令和4年9月29日(木)~10月1日(土))に、札幌コンベンションセンターにて第32回日本産業衛生学会全国協議会が開催されました。コロナ禍の継続により、現地開催とWEB同時配信を利用したハイブリット開催となりました。

 学会のテーマは「連携と協働 ―職種、組織の壁を越えてー」で、1日(土)には産業歯科保健部会の2022年度後期研修会が開催されました。研修会のテーマは「これからの歯科特殊健康診断-その考え方と実際-」でした。 

 以下に、研修会のプログラムと、講師の矢崎武先生が、本年3月に部会ホームページ用に作成して下さいました講演の後抄録を掲載致します。

【プログラム】

◆産業歯科保健部会 2022年度後期研修会

連携と協働 ―職種、組織の壁を越えてー

 10月1日(土)10:30~12:00

演者:矢崎 武(西部労働衛生コンサルタント事務所)

座長:小林 宏明(住友商事株式会社 人事厚生部 歯科診療所)   

   木下 隆二(木下労働衛生コンサルタント事務所 北海道歯科医師会会員)

【講演後抄録】

これからの歯科特殊健康診断ーその考え方を中心として一

労働衛生コンサルタント 矢崎武

▼歯科界の現状

労働安全衛生法(安衛法)における歯科医師による健康診断(歯科特殊健康診断)の実施徹底を促す通達(令和2 年)、さらに労働者数にかかわらず、歯科健診結果報告の義務化(令和4 年)をうけて、歯科健康診断を行う事業場が増えました。他方、歯科健康診断を担当する歯科医師側には、何をどのように診査すべきか戸惑っている状況も見られています。多くの歯科医師が歯科特殊健診に馴染みがないことが主因です。また、それを「酸蝕症検診」と思っていた歯科医師も、歯の酸蝕症(酸蝕症)がみられないことに気づいて困惑しているのかもしれません。このような時代における歯科特殊健康診断の考え方を中心に考察します。

▼疾病管理から労働衛生管理の時代へ

昭和29 年に、歯科医師による健康診断が労働基準法(労基法)に導入されました。当時は、酸蝕症は酸取り扱い職場に普通にみられる症状であり、労基法の歯科健診も主にそれらを検出するための、いわゆる「酸蝕症検診」でした。商度経済成長期が終わりに近づいた昭和47 年、「労働安全衛生管理」思想(考え方)を基盤とした労働安全衛生法(安衛法)が制定されました。

その後、労働安全衛生管理の考え方は、法として全国に普及して行きました。健康診断についても、労基法時代は疾病を見つけるだけの「疾病管理」のものでしたが、安衛法以降は、疾病検出だけでなく、労働者の健康確保を目指す「健康管理」へと変わりました。

しかしながら、長い間、労働衛生領域に関心を示して来なかった歯科界は、そのような変化に気づくことなく現在に至りました。安衛法制定から50 年を経て、未だに「酸蝕症検診」という言葉が聞かれるように、歯科界には労基法時代の疾病管理感覚がなお存続しています。

▼リスクに応じた健康診断

令和4 年から5 カ年計画で化学物質管理改革が始まりました。そこでは、「健康診断はリスクに応じた頻度とする」などとして、特殊健康診断の頻度については、一定要件を満たせば、年に1 回行えば良いものとしました。歯科健康診断についても、近い将来、年に1 回の頻度となるものと推定されます。

歯科健診の対象となる化学物質による健康障害の多くはリスクが無いとは言えません。リスクに応じた健康診断を行うとする国の姿勢を是とするものではありませんが、それらの状況を踏まえ、歯科界としてこれからの歯科特殊健康診断のあり方を考えておく必要があります。