平成27年度産業歯科保健部会前期研修会の記録
平成27年5月13日(水)~16日(土)にグランフロント大阪にて開催された第88回日本産業衛生学会で、平成27年度産業歯科保健部会前期研修会を5月16日(土)に実施しました。
テーマは「グローバル化と歯科保健」で、参加者は33名でした。
プログラム
座長:尾崎 哲則(日本大学歯学部 医療人間科学教室)
加藤 元(日本アイ・ビー・エム健康保険組合 予防歯科)
演題名:「グローバル化と格差社会 ~歯科保健の観点から考える~」
演 者:中久木 康一(東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 顎顔面外科学分野)
産業と経済のグローバル化にともない、企業からの海外派遣労働者や日本国内で働く外国人労働者が増加してきています。日本で働く外国人労働者数は、製造業や建設業等2次産業が最多ですが、近年では3次産業でも企業のグローバル化戦略や海外企業との合併等で増加傾向にあります。
生活習慣病の中でも、歯科疾患の発症リスクは、学歴や収入、職業など社会経済要因に強く影響されることが知られています。そこで、日本で働く外国人労働者や非正規雇用労働者、失業者を対象とした歯科保健活動に精力的に活動されている中久木 康一先生に「グローバル化と格差社会 ~歯科保健の観点から考える~」と題しご講演いただき、尾崎座長が歯科医療制度・体制の国々の差異について解説を行って共通認識を得た後、現状の理解と改善に向けて研修を行いました。
以下に演者の事後抄録を掲載します。
文責:加藤 元
事後抄録
「グローバル化と格差社会 ~歯科保健の観点から考える~」
中久木 康一 (東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 顎顔面外科学分野)
在日外国人は増えているが、その構成は、リーマンショックや東日本大震災などの社会的な影響を受け、変化してきている。
在日外国人健康相談会においては、当初は病院受診のお手伝いや早期発見・早期治療を目指した検診が中心であった。
出身国の違いなどにより、文化的・宗教的背景や教育水準の違い、また、母国と日本との歯科診療方針の違いもあり、その背景を把握した上での対応が必要とされる。個人に対する健康教育には限界があり、今後はコミュニティと協働した健康づくりを進めて行く必要があると考えられる。
発展途上国においては、同じ国の中でも大きな格差がある。首都では医療の整っている国も、地方に行けば医療もインフラも整わず、健康づくりには保健活動が更に重要である。日本には国民皆保険があるが故に、比較的画一的な医療がアクセスよく受けられるが、逆に治療方針も健康保険により規定されてくる弊害もある。
日本はいまだ、グローバル化してきているとは言えない。難民の受け入れ率は他の先進諸国に比較して極端に低く、難民申請中の方に対する医療対応には未だ制限が多い。国際結婚の増加により、既に50人に1人が、日本国籍で産まれてきているのに関わらず、この「ハーフ」と呼ばれる日本生まれ日本育ちである日本国籍者を、顔の雰囲気が違う、肌の色が違うという理由だけで「日本人」と捉えない風潮さえある。
産業保健はこれまで、多くの方々に恩恵をもたらしてきた。一方、自営業の方や下請け会社の派遣社員、そして、退職して家族の介護をしている方など恩恵を受けられていない方々は多く、今後更に増えて行くと思われる。
これらは全て「違い」であるが、意味は捉え方によって異なる。差別、軽蔑、羞恥を伴う「違い」は「イヤな違い」であり、格差とも呼ばれる。
これに対して、非日常、異文化交流、刺激という「違い」は「楽しめる違い」であり、仲間をつくり、連携をとり、自分も成長するチャンスでもある。
いかにしてこの「イヤな違い」を「楽しめる違い」としていくかが、望ましくない格差=不平等を是正していくためのキーワードであるように思われる。
"Thing Globally, Act Locally"まだまだ手の届く範囲に、保健を求めている集団はたくさんある。オリンピックでは、世界の人たちが来日し、世界の眼から評価される。このチャンスを、活かしていきたいと考えている。