第18回日本産業衛生学会 産業医・産業看護全国協議会の記録
第18回日本労働衛生学会 産業医・産業看護全国協議会
第6回 4部会合同セミナーの報告
「みかんの摘果作業に於ける2つの鋏の負担調査」について
11月27日10時50分から18時30分まで四部会の合同セミナーが開催されました。今回は、産業歯科保健フォーラムと重なったため、歯科からの参加は2名でした。(昨年は6名)
今回のセミナーは、蜜柑農家で負担の大きい作業である摘果作業を調査し、その改善案を提案することでした。特に、今回は、作業全体の負担軽減対策の検討と同時に、摘果作業の負担軽減のために開発された鋏と従来の鋏との比較実験を行い、その評価を行うと同時に、摘果時の作業管理、作業環境管理の状態を実際に体験し、改善点を提案するものです。作業を実際に体験する「体験型セミナー」は今回が初めてです。
学会会場である松山市総合コミュニティセンターに集合後、マイクロバスで約30分の松山市郊外の「伊藤農園」様に移動しました。蜜柑の摘果は木から摘果する時に一回切り、そのあと蜜柑の先端に枝のついたものを蜜柑の根元でもう一度切る2度切りという方法で行います。枝が少しでも蜜柑についていると輸送中に他の蜜柑に傷をつけるために2度切りを行うとのことです。そのため蜜柑農家の人は温州蜜柑一日約1万個摘果するために、2万回カット作業が必要になり、腱鞘炎等の手の障害が発生しやすく、手、前腕、肘等の負担をできるだけ少なくするために改良型の鋏を開発したそうです。10分ずつの摘果作業を実際に行い、鋏はもちろんのことそれ以外の作業改善すべき事項や改善された良い事項などを体験しました。途中雨も降ってきてあいにくの天気でしたが、熱心に蜜柑摘果の実施体験を行っていました。(NHK松山支局から取材にも来ており、19時の四国地方のニュースで放映)
摘果終了後、松山総合コミュニティセンターに戻り、残留農薬の講義を1時間受講し、その講義も参考にいれて、グループに分かれ12人でのグループ討議とプレゼンテーションの準備のために話し合いが行われました。討論時間は2時間で1グループ約12人、司会、書記(PCで発表のPowerPointの製作)、発表者など決めたのち、意見を短時間に効率良くまとめることが要求されました。発表は各グループの代表発表者が10分で行い、質疑応答が行いましたが、各グループとも2時間で製作したとは思えないほど充実したものでした。
これらの発表した内容を実際に「伊藤農園」様にフィードバックし、今後の参考にして頂くように報告しました。
来年は主催者側も産業歯科保健のフォーラムなどとは重ならないように考慮するとのことですので、産業歯科保健部会からも多くの参加者をお願い致します。
報告者:カシオ計算機(株)本社診療所 三村 将文
第18回日本産業衛生学会産業医・産業看護全国協議会
産業歯科保健フォーラム報告
11月27~29日に愛媛県松山市総合コミュニティセンターで開催された第18回日本産業衛生学会産業医・産業看護全国協議会のメインテーマは、「活力の創出とリスクの低減に貢献する産業保健」でした。27日(木)には、メインテーマに沿って、「職場における歯科保健―生活習慣病予防における歯科の役割―」というタイトルで、産業歯科保健フォーラムが34名の参加者をもって開催されたので報告します。
今年4月には、メタボリックシンドローム(内蔵脂肪型肥満)に着目した特定健診・特定保健指導が開始され、勤労者の生活習慣病予防は職域にとっても非常に重要な課題となっています。また近年は、口腔の状態と全身の健康との関係に関する多くのエビデンスが明らかとなってきています。今回の歯科保健フォーラムでは、メタボリックシンドロームや生活習慣病の予防に対して産業歯科保健がどのようにかかわっていける可能性があるかをめぐって、4名のシンポジストの講演がありました。
タイトル:「職場における歯科保健―生活習慣病予防における歯科の役割―」
座長:森田 学(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科予防歯科学分野)
シンポジスト:
1) 山中玲子(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科予防歯科学分野)
2) 野村圭介(高知県歯科医師会)
3) 岡田寿朗(香川県歯科医師会)
4) 木村年秀(三豊総合病院歯科保健センター)
1) 山中玲子氏「生活習慣病と歯科疾患の関係」
内臓脂肪細胞が産生する生理活性物質である悪玉アディポカイン(TNFα、PAI-1、アンジオテンシノーゲン)、善玉アディポカイン(アディポネクチン)の生体への作用および歯周病との関係についての解説をいただきました。メタボリックシンドロームに歯周病が加わると動脈硬化が促進され、心筋梗塞や脳梗塞へ進行する危険性が高くなる。また口腔の状態は、全身状態を知る1つの指標といえる。一方口腔は患者自らが変化を認識しやすい器官でもあるため、特定健診・特定保健指導時に歯科を切り口とすることで、より成果のあがる健診・保健指導が実現できることが期待される、というご講演をいただきました。
2) 野村圭介氏「高知県における生活習慣病予防への歯科からの取り組み」
高知県では特定健診時の生活問診項目に「歯ブラシ使用時の出血の有無」、「デンタルフロスや歯間ブラシの使用の有無」および「定期的な歯科医院受診の有無」の3項目が採用され、歯科の特性を生かした保健指導・保健教育を検討している。今回、某銀行で、「口からはじまるメタボリック予防対策」として、歯周病健診を通じて保健指導を行った結果、生活習慣を振りかえり、具体的な行動目標を設定し、個々に応じた指導を行うことで、口腔内のみならず、身体状況について予防に対する意識が高まり、行動変容を起こす可能性が示唆された。また、かかりつけ歯科医に対しても意識の変容が認められ、定期健診など自分の健康を増進させるために歯科にかかるという行動変容に結びつく可能性も考えられた、というご講演をいただきました。
3) 岡田寿朗氏「香川県における成人歯科健診プログラムの策定について」
香川県歯科医師会では疾患の早期発見・早期治療を主目的とする従来型の歯科健診からの転換を図り、疾患をもたらすリスク要因を探り、そのリスクからの是正を目指す成人歯科健診プログラムを策定している。これは歯科衛生士による歯科保健指導を中心に、モチベーションを高め、気づきのための指導を行い、健康教育やフォローアップも含めた体系的なものとなっている。今後は、このプログラムを特定保健指導の場において実施していけるような体制作り図って(特に国保での積極的支援・動機付け支援対象者に)いきたい、というご講演をいただきました。
4) 木村年秀氏「香川県における特定健診・保健指導への歯科からのアプローチ」
香川県では国保連合会と香川県歯科医師会が協力して医療費分析を行ってきた結果、医療費適正化対策として歯科保健対策を行うことが重要であると認識された。そこで県として特定健診・特定保健指導と連動して、歯科保健対策に取り組むこととし、本年度より国保特定健診質問票に歯科7項目が追加された。昨年度は、特定健診・特定保健指導実施前の試行的事業として、観音寺市国保ヘルスアップ事業を観音寺市行政と一緒に取り組み、参加者への集団指導、歯周病のスクリーニングとして唾液検査、ガムによる咬合力検査およびブラッシング等の個別指導などを行った。その結果、歯科個別指導参加群は腹囲、BMI、中性脂肪およびHbA1c等が不参加群に比べ、より改善傾向がみられた。そのためメタボリックシンドローム対策としての特定健診・特定保健指導への歯科からのアプローチの有用性が示唆された、というご講演をいただきました。
講演の後、活発な討議が行われ、最後に森田座長により以下のように締めくくられました。
現在勤労者の約半数は定期健康診断において何らかの異常所見をもっています。また今年から始まった第11次労働災害防止計画に「労働者の健康確保対策を推進し、定期健康診断における有所見率の増加に歯止めをかけ、減少に転じさせること」といった目標もあります。今回の各先生方のご講演から歯科は、勤労者の生活習慣病予防対策のため十分貢献することが可能であることが明らかとなりました。そのため産業歯科保健部会は職域における生活習慣病予防対策のため、より一層の口腔保健活動を行っていく必要性があると考えられました。
報告者:日立横浜病院横浜健康管理センタ 澁谷 智明