第81回日本産業衛生学会 産業歯科保健フォーラムの記録
第81回日本産業衛生学会 産業歯科保健フォーラム
平成20年6月27日、札幌コンベンションセンターで開催された第81回日本産業衛生学会にて、学会のメインテーマである「人間らしい労働」と「生活の質」の調和 - 働き方の新しい制度設計を- にそって、「社会的勾配と口腔保健」というタイトルで産業歯科フォーラムが行われた。
テーマ:「社会的勾配と口腔保健」
座長: 森田 学(岡山大学医歯薬学総合研究科 口腔保健学)
川口陽子(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 健康推進歯学)
シンポジスト:
1) 野村眞弓(JME日本医療経営評価機構株式会社)
2) 深代眞吾(深代歯科医院)
3) 大鶴次郎(元神奈川県勤労者医療生活共同組合・港町歯科)
野村眞弓氏(日本医療経営評価機構株式会社)の講演、「勤労者の歯科受診―社会保険と家計支出からみる所得・年齢の影響」では、国民皆保険制度化で平等に受療できる保障があるにもかかわらず、家計の歯科医療への支出は所得に依存し、結果として生涯の口腔状態も所得、学歴、教育といった社会的要因の影響をうけやすくなっていること、勤労者の歯科保健を考える上で、就労環境のみならず社会階層における相対的な位置を考慮したアプローチが必要であるとの提言がなされた。
深代眞吾先生(深代歯科医院)の講演、「職業性歯の酸蝕症の現状と対策」では、中小企業の酸使用職場では、歯の酸蝕症は重度ではないが今現在のなお存在する疾患であること、法に遵守した歯科特殊健康診断を行う歯科医師側にも酸蝕症を診断できる能力を研鑚する必要があること、そして中小企業への環境改善への取り組み方など、実際に取り組まれてきた体験をもとにご解説いただいた。いまだ過去の疾患ではない歯の酸蝕症への対応について、産業歯科保健部会としても今後積極的に取り組んでいく必要性が示唆された講演であった。
大鶴次郎先生(元神奈川県勤労者医療生活共同組合・港町歯科)の講演、「在日外国人労働者における口腔保健問題について」では、建築・製造・清掃・サービス業などに従事する外国人医療に積極的に取り組んでいる神奈川県勤労者医療生活協同組合・港町歯科の活動を報告いただいた。就業状況による制限や、口腔への健康意識の相違や費用の問題で治療を完了することが困難であること、保健行動の変容を目的とした健康教育までなかなか進めないといった課題点があげられていた。また、言葉によるコミニケーションギャップによって、適切な安全配慮や対応ができず、不利益をこうむっているケースが非常に多く、社会保険・雇用保険・労災保険・年金制度・子弟の教育問題など、日本で働く外国人の受け皿を整備すべきと提言された。
このように歯科保健に影響をおよぼす所得、企業規模、就業形態、人種などさまざまな要因に関する講演に対し、産業医の先生を含め、多くの質問、活発なディスカッションが行われた。